2024年4月27日(土)、本研究所代表の松本茂章著『地域創生は文化の現場から始まる 全国35事例に学ぶ官民のパートナーシップ』の出版記念会が開催されました。当日の様子について、研究所スタッフ・北島が報告します。
本書は、2024年2月10日に学芸出版社より出版された松本先生の新刊で、全国35の事例を紹介しつつ、「文化の現場」の多様な姿を論じた著書となっています。その出版を記念して開催された本イベントでは、行政学や地方自治論をご専門とする中川幾郎先生と新川達郎先生両名をお招きし、座談会形式で本書が生まれた経緯の説明や、新たな問題提起が行われました。会場となった本のある工場には、全国から30名以上が来場し、対談を通じてこれからの地域創生を考えつつ、来場者間での交流が図られました。
座談会の様子(左から松本先生・新川先生・中川先生)
この出版記念会を主催した松本先生は、座談会に先立ち、次のような想いを述べています。曰く、自身16冊目(単著としては4冊目)の著書にして、初めて出版イベントを開催するに至った背景には、本のある工場で書き上げた初めての書籍として新著に思い入れがあるだけでなく、本書で紹介した各事例の関係者が、お互いに知り合い、交流できる場を設けたいとの考えがあったとのことです。ここには、広義の文化施設に焦点を当てた9年前の著書『日本の文化施設を歩く 官民協働のまちづくり』(松本, 2015)から視野を広げ、「文化の現場」は街の中に偏在するという本書の議論を、自身の実践をもって具体化する意識が見て取れます。
このことは、DIY精神に溢れた手作りのイベント運営にも反映されていました。当日は関係者による焼き立てのたこ焼きが振る舞われ、更には参加者からの多様な差し入れも並んだことで、小さな祭りのような熱気が会場を包みました。開始前から皆で食を楽しみ、終始和やかに進むパーティは、座談会の中で言及された「文化的コモンズ」(藤野, 2022 参照)の原点をも思わせます。
焼き立てのたこ焼き、美味しかったです!
先生方の座談会が始まると、一転してフロアは真剣な眼差しで話に聞き入ります。特に、中川先生の(時に毒舌を交えた)熱意ある解説からは、今後の地域行政、あるいは官民協働による地域づくりを考える上で、切迫した課題意識が浮かび上がりました。何より、芸術へのアクセス権の確保は人権保障であるとの指摘は、重要な意味を持つでしょう。その上で、文化政策における縦割り行政からの脱却の必要性や、そもそもの行政方針として、民間の活動と上手に協力するスタンスを取るべきだとする考えは、閉塞感漂う地域の文化振興に対して、一定の処方箋となることが期待されます。更に、歴史に基づく宿命・持続的な歴史文化政策と、都市活性化に繋がる選択・集中的な都市文化政策、及び市民文化政策と地域文化政策の分類は、地域の行政政策を判断する際に指針となり得るでしょう。また、近年の研究傾向に対して、研究対象がニッチになりつつあることに懸念を表明されたことは、大学院にて研究を続ける身として肝に銘じるようにします。
白熱した対談を終えると、少しの休憩を挟み、イベントに来場した著書の関係者が順に紹介されていきます。バリ島との文化交流を進める島根県美郷町の職員、ストリートピアノのプロジェクトを実施する大阪府豊中市の職員、アオバナによる地域振興に取り組む滋賀県草津市の元高校教員等々。そこでは、関係者本人が自ら事例を紹介するだけでなく、最新の事情まで語られたことで、変わりゆく地域というものを感じさせてくれます。今後、この日の来場者の数名を「文化と地域デザイン講座」のゲストにお招きする計画があるとのこと。今から期待が膨らみます。
関係者紹介の様子
出版記念会では、先生方による専門的な対談から関係者による現場の声、更には、各地のグルメに至るまで、心もお腹も満たされるパーティとなりました。今回の充実した議論を栄養に、各々の取り組みが今まで以上に発展していくことを願います。
貴重な話から美味しい料理まで、皆様ありがとうございました!
文責:北島拓(大阪大学大学院人文学研究科博士課程)
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〈関連文献(紹介順)〉
松本茂章 (2024)『地域創生は文化の現場から始まる 全国35事例に学ぶ官民のパートナーシップ』水曜社.
松本茂章 (2015)『日本の文化施設を歩く 官民協働のまちづくり』水曜社.
藤野一夫 (2022)『みんなの文化政策講義 文化的コモンズをつくるために』水曜社.
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